食育という言葉をよく目にするようになりました。食を通じて健康な身体や心を育むというものです。その食育の場で、今注目されている食事法があります。静岡県立大や大手化学メーカーの花王が提唱している「スマート和食」です。
もともと太りにくくてヘルシーなのが特徴の和食をさらに発展させた「スマート和食」とは一体どのような食事なのでしょうか。実践のポイントをまとめました。
カロリーだけじゃなくて質が大事

ご存知のように、日本では肥満の人が増えていることが大きな問題になっています。厚生労働省の調査では、平成28年の肥満者の割合は男性の約3割、女性の約2割。さらに、糖尿病の患者数とその予備軍も、それぞれ1000万人ずついるとされているなどかなりの数に上り、職場などの仲間内に1人はいても全くおかしくないような状況です。
では、日本人は昔に比べてたくさん食べ過ぎているのでしょうか。実は、日本人のカロリー摂取量は1970年代をピークにどんどん減少しています。なんと2012年の総摂取カロリーは食糧難だった戦後間もないころ(1950年)よりもまだ少ない水準なのですから、驚きを禁じ得ません。
では、いったいどうして肥満やメタボ(内臓脂肪)がこんなにも増えているのでしょうか?長年内臓脂肪と食事の関係を研究してきた花王が提唱するのは、「食事の量だけではなく、質がポイントになっている」ということです。
例えば、戦後すぐのころの日本人のメインディッシュといえば、もっぱら魚料理でした。ところが、現代では肉料理にとって変わられています。魚油にはDHAやEPAのようなオメガ3脂肪酸が豊富に含まれるのに対し、肉の脂肪は飽和脂肪酸が多いということを聞いたことがある人は多いかもしれません。同じ量・カロリーであったとしても、油の種類が違うのです。
これまでの研究から、飽和脂肪酸は血中総コレステロール値を高め、逆に魚油に含まれるDHAやEPAは血中総コレステロールを下げることが報告されています。つまり、魚から肉に乗り換えると、食べる油の量は同じであったとしてもコレステロール値は上がりやすいということになります。
さらに炭水化物。日本人の主食は昔からお米でしたから、炭水化物自体の割合は以前から多かったはずです。ところが、最近では菓子パンやパスタなど、食物繊維が少ない炭水化物の割合が増え、お米も玄米より白米の方が主流です。イモ類を食べる機会も減りました。糖質を食べても食物繊維と一緒であれば血糖値が上がりにくいということがわかっていますから、食物繊維の摂取量を減らすと同じ糖質の量でも血糖値の変動が激しくなりやすいということになります。
このように、カロリーの総量は変わっていないのに、その内容を詳しく見てみると少しずつ変わっているということが日本人の食事の中で実際に起きているわけです。
スマート和食、実践のポイント

それでは食事をどのように変えていけば良いのでしょうか。花王が提唱している「スマート和食」は、しっかり食べても太りにくいという和食の特徴を良く活かし、さらに食べる時間まで調整してより太りにくい食事を目指したものです。
まず、食事の質を見直すところから始めましょう。
○質のポイント
1 たんぱく質、脂質の比
たんぱく質は筋肉の材料。積極的にたんぱく質を摂りましょう。
2 食物繊維、糖質の比
糖質は食物繊維と同時に食べれば血糖値の上昇を抑えられます。
3 オメガ3、脂質の比
魚油や植物油に含まれるオメガ3を積極的に摂りましょう。
特に3番目の「オメガ3、脂質の質」。肉類に多い飽和脂肪酸は人間の体内でも作り出せるものですが、オメガ3はそうすることができない必須脂肪酸です。肉の油を魚や植物油に置き換えると良いでしょう。
和食の大きな特徴は、数多くの品目を少しずつ食べるという点です。実はこの食べ方は、栄養のバランスが崩れない理想の食べ方。栄養素ごとに数字して管理すると、1種類で補給しても同じように感じることがあるかもしれませんが、実際にはそれではミネラルやビタミンに偏りが出てしまうこともあります。和食は偏りをなくすのに適した食べ方なのです。
○食事5か条
1 食卓
毎食ごはんを中心に、主菜1皿と副菜2皿をそろえる
2 主菜
魚と大豆製品はそれぞれ1日1回ずつ食べる
3 主菜
肉は低脂肪のものを選ぶ 乳製品は低脂肪か無脂肪のものを選ぶ
コレステロールは卵より乳製品
4 副菜
旬の野菜・きのこ・海藻・芋・果物などをまんべんなく食べる
5 調理法
油脂を使った料理は1食1皿
最後に、より効果的に実践するためのポイントです。大切なのは食べる時間帯と毎日同じ時間にたべること。生体リズムが整うことでホルモンの分泌もよくなり、太りにくい身体を目指せます。
○くらし3か条
1 時間
朝食は午前8時まで、夕食は午後8時までを目指す
2 間食飲食
お菓子やアルコールは、あわせて1日の総摂取カロリーの1割以下を目安に楽しむ
3 調整
週に1回は体重を測定し、増えていたら食事量や活動量を見直す
全てを自炊でまかなうことはなかなか難しいかもしれません。そういうときにはコンビニで惣菜を1品足すとか、外食であっても1品目だけにしないとか、多様性を確保するように心がけることが大切です。
私たちの身体は食べたものでできています。スマート和食でスマートな身体を目指しましょう。