全国に路線が張り巡らされている「高速バス/夜行バス」は、なんといっても朝起きたら目的地についているというのが最大の魅力。
「出張先で夜遅くまで飲める」「特急電車よりも安く移動できる」といったわがままをかなえてくれる便利さが人気の秘訣で、今や年間の利用者は1億人を超えています。
一方で、長時間座り続けないといけないというのが不安要素。首や腰などあちこち痛くなってきて、まったく眠れないという人も多いみたい。
寒さ・暑さや周りの物音、足のむくみなんかも気になるポイントです。
そんなときは、快適に過ごせるように車中でちょこっと工夫してみましょう。達人が教える裏技で、翌朝のぐったり感は大きく変わります!
夜行バスのお悩み、どうしたら?達人が全部お答えします!
毎週のように高速バス/夜行バスに乗っている編集スタッフに快適に過ごすコツを聞きました。達人はどんな工夫でお悩みを撃退しているのでしょうか?
「身体を痛めないために気をつけたいのは、姿勢です。どんなに丈夫な人でも、窮屈な姿勢で一晩過ごしたら腰が痛くなっても仕方ありません。
あとは、寝よう、寝ようと気負いすぎないこと。普段どおりベッドに横になるまでのルーティンを行えば、あとは眠気の方からやってくるのを待つだけです」
▼腰が痛い
「夜行バスで眠れないのはやっぱり腰が気になるときですよね。腰が痛いとどんな体勢になってもつらいものです」
だから痛くなってからどうこうするのではなくて、痛くならないよう、先手先手の対策を打つべし!
・腰を痛めたくなかったら始発駅から乗ろう
「なるべくベッドで寝ている姿勢に近づけるという話も上に出ましたが、やはり座席のリクライニングは可能な限り倒したほうが快適に過ごせるという人が多いようです。問題になるのは、後ろの人に申し訳なくて思いっきり倒せないという場合ですね
「特に、声をかけようとして後ろを振り向くとアイマスクをして寝ていた、なんてことになると倒したくても倒せないという人も多いはず。途中のバス停から乗り込んで、用意が整う前にバスが出発してしまいリクライニングを倒すタイミングを逃した、なんて失敗談もよく聞きます」
「そんなトラブルを回避するために、始発のバス停で乗り込んで早々にある程度倒してしまうといいですよ。あんまり倒しすぎると後ろの人が座席に入れないので、始めは程ほどに。後ろの人が座席に着いたタイミングでもっと倒しても良いか聞いてみましょう」
・中途半端にリクライニングを倒すくらいなら、倒すな!
「途中から乗ったり、後ろの人に気を使ったりして中途半端に倒す人もいますが、これはあまりおすすめできません。リクライニングをちょっとだけ倒して、お尻を前にずらして座ってみると、明らかに腰に負担がかかっていることがわかるはずです。」
「ですが、“リクライニングをちょっと倒す派”は、寝ようとすると知らず知らずのうちにこの姿勢になってしまうので、これで腰を痛めやすい。だったら、最初からリクライニングは倒さずに、背筋を伸ばした状態で過ごしたほうが腰への負担は少なくなります」
「リクライニングを倒さずに座るときのポイントは、お尻をおろすとき前かがみになって背もたれにググッとお尻を押し当てるようにすること。そのまま身体を起こしてくると、腰ががっちり固定されるので痛くなりにくいです。ハンドタオルを四つ折にしてウエストの空いている部分に敷くと、さらに快適になります」
・S.A.に着いたら四つんばいで腰痛を防ぐ
「S.A.での休憩になったら必ず外に出てストレッチをしてみてください。新鮮な空気を吸うと気分転換になりますし、腰が伸びてスッキリしますよ。」
「ここまでの道のりで腰が痛くなってきたという人に特におすすめしたいのが、四つんばいになるストレッチです。地面に手をついて四つんばいになり、膝を伸ばして腰を高く上げるだけという簡単なものですが、腰や太もも、ふくらはぎなど広い範囲を一気に伸ばせるので効率的です。」
「地面に手を付くので、手袋をしたり、芝生のある場所でやってみてください。どうしても腰のもやもやが取れないときには軽くジョギングをしてみるのもリセットされて違和感が軽くなりますが、やりすぎるとその後、目が冴えてしまうので注意してください」
▼首が痛い
「腰と並んで痛みトラブルが多いのが首です。首の痛みを感じるのは男性よりも女性の方が多いようですが、これはシートの高さが男性を基準に作られているから。
最近のシートでは枕の位置を調整できるようになっているものも多いので、首に負担がかかっていると感じることはかなり少なくなってきましたが、席に備え付けの枕が合わないときには首をどうやって置いても収まりがよくありません」
そこで大活躍するのが持ち込みの秘密兵器です。
・タオルや空気枕を持ち込もう
「首に不安がある人におすすめしたいのが、空気を入れて膨らませるタイプの首枕を持ち込むことです。もちろん綿入りのものでも良いですが、空気を入れるタイプならかさばらないのでカバンの中にいつでも忍ばせておくことができるので便利。
首枕があればどんなシートでも自分の身体にフィットさせることができます。ただ、首枕は商品ごとに大きさと形にばらつきがあります。実戦で使う前に必ず自宅で試してからにしてください」
「首枕を忘れた、もしくは面倒くさいという人はハンドタオルでも十分代用できます。ハンドタオルを縦長にくるくる丸めて、ヘアゴムで両端を縛って枕を作ります。硬くなりすぎないよう、少しゆるめに巻くことがポイント。首に一周させてみてください。思った以上に快適に過ごせるはずです」
▼足がむくむ
「地味につらいのが足のトラブルですよね。夜行バスを使って移動するということは、次の日は一日フルに歩き倒すという人も多いはずです。バスで足がだるくなってしまってはせっかくの旅行も台無しです」
足がむくんでしまう原因は、長時間動かさないというのが第1位。足は心臓から見て一番下にあるのでただでさえ血行が悪くなりやすい場所。その血行はふくらはぎの動きがサポートしているので、座りっぱなしでふくらはぎが動かないと、むくみやすくなってしまうのです。そこでポイントになるのが“なるべく足を上げる”ということと“足を動かす”ということ。
・フットレストを自作しよう
「足元がゆったり目に作られている高級路線ではフットレストがあるのが一般的になってきました。フットレストがある場合は活用して足の位置を高くしましょう。
でも4列シートにはないのが一般的です。そういう時はカバンを足元において、即席のフットレストを作ってしまいましょう。ハンドタオルがもう一枚あると、カバンの上に掛けられて便利です」
・座席を選べるときは通路側を確保
「カバンを踏みつけるなんて!という人は、ぜひ通路側の席を確保してください。消灯後は通路に足を投げ出してもOKです。足を伸ばしているだけで足はむくみにくくなります」
「また、気がついたときでも良いのでふくらはぎを動かしたり、さすったりするとむくみが気になりにくくなるかと思います。むくみ解消にはかかとを上げる体操が手軽にできておすすめです」
▼暑い・寒い
「夜行バスで意外と多いのが、温度が気になって眠れないというトラブル。密閉された空間なので空調が利きすぎて、夏は寒すぎる、冬は暑すぎるという問題がよく発生します。運転手さんは空調の具合について必ず確認するアナウンスを入れるはずですが、それに対して注文をつけた人をいままで見たことがありません」
自分で対策するほかないというのが現実のようです。
・座席は真ん中寄りの通路側を確保する
「暑さは脱げばいくらかマシになりますが、寒さは着るものがなければどうしようもありません。なので、車内には1枚多めに羽織って入るというのが鉄則です。丸めて腰枕や首枕としても使えるように、薄手のフリース素材がいいですね」
「また、実は座席によってかなり体感温度が変わります。夜行バスの空調は基本的に前から後ろに向かって流れているので、後方の座席は空調が利きすぎる問題が起こりやすいようです。また、窓側は窓ガラスからの冷気が入るので、冬場は冷えやすいですね。ですから、トラブルが一番少ないのは真ん中寄りの通路側のシート。座席を選べるならぜひここを選ぶようにしてください」
▼周りが気になる
「周りの音や光が気になるというのも快適な旅を邪魔する定番のトラブルです。今はみんなスマホを持っているので、特に若い人はスマホでゲームをしたりしていて、光がチラチラしてとても気になります。こんなトラブルを避けようと思ったら、四方がカーテンで区切られている3列独立シートを選ぶのが一番」
「アイマスクを使うというのも手ですが、慣れない人はかえって快適に過ごせないかもしれません。そういう人には、温まるタイプの使い捨てアイマスクがおすすめです。気持ちよさが勝って邪魔な感じはそれほどありません」
「周りが気にならないように頭を覆うフードがついている座席もありますが、あれは人によって好みが分かれます。私には衛生面が気になって無理でした。それよりは、マイタオルを持参して頭からかぶるほうがよっぽど安心できるという人も多いのではないでしょうか」
▼乗り物酔いする
「乗り物酔いしやすいから夜行バスはちょっと…、というのも良く聞く話です。実は私も電車で酔うこともあるなど乗り物に弱いほうですが、夜行バスで酔ったことはありません。そもそも乗り物酔いは、車の揺れと目で見た景色がずれることで脳が混乱して起こるようですが、夜行バスは窓を全てカーテンで閉め切っているので、酔いにくくなっているようです」
「ただ、それでも酔うというひとは、なるべく後列を選んでみましょう。前列は運転席から外の景色が見えてしまいます。また、バスは後輪を軸にしてカーブを曲がるので、前列の方が、揺れ幅が大きくなってしまうのです。どうしても不安なら、乗る30分~1時間ほどに酔い止めを飲みましょう。酔い止め薬は酔い始めてから飲んでもすぐに利くわけではないので、事前に飲むことを忘れないようにしてください」
3列独立?水平シート? 快適な夜行バスの条件とは?
ところで、どんなバスを選べばいいのでしょうか?同じ路線でもいくつかのタイプから選べる場合、高ければ高いほどいいの?
「いえいえ、確かに値段はある程度の目安にはなりますが、それよりも大切なのは○○なのです!コツがつかめればうんと節約できますよ」と達人。
▼夜行バスの種類
現在、いろいろなタイプの夜行バスが日本中で走っていますが、座席の数によって4列、3列に分類することができます。
4列シートは通常の乗り合いバスとほとんど同じ作りのバスで、定員を一番多く確保できるのでその分料金が安いようです。昼行の高速バスはほとんど全てがこの4列シートで、路線によっては夜行も4列しかないところもあるようです。
3列シートは夜行バスに独特の作りで、片側に2列、もう片側に1列という場合と、3列がそれぞれ独立している場合があります。
各座席が広くなっていますが、その分定員の数が少ないため、料金も4列シートに比べると高めに設定されています。東京大阪間など、大都市間の路線に良く見られます。
さらに最近では、片側1列ずつしかない2列シートの高級路線も登場しています。例えば、東京大阪間を結んでいるJRバスの「ドリームルリエ」号は、前半分が2列シート、後ろ半分が3列シートで、全部合わせても1車両あたり18席しかありません。
2列シートの料金は1万4000円~1万8000円と新幹線と大差ない値段ですが、連日予約でいっぱいで、やはり快適さは抜群のようです。
▼快適さの条件
値段が高ければ必ず快適だというわけでもないでしょうが、2列シートには夜行バスを快適に過ごすための工夫が満載されています。例えば、今ある夜行バスの中でも最上級シートの一つである「ドリームルリエ」の特徴をご紹介しましょう。・個室感覚=カーテンで四方が区切られている
・156度の深いリクライニング(4列シートは131度)
・シート幅61cmで寝返りが打てる広さ
・フットレスト
・レッグレスト
・スリッパと毛布のアメニティ付き
座席はほとんど水平に感じるくらいまで倒せて、しかも寝返りが打てるので、ベッドで寝ている感覚に近い状況を作ることができます。
実はこれが夜行バスで快適に過ごすための最大のポイント。いかに自宅で寝ている状況に近づけられるかがとても大切なのです
忘れてはいけないのがスリッパや毛布のアメニティ。靴を履いたままだと圧迫感があり、なかなか寝付くことができません。
空調の関係で、夜行バスは寒さを感じることもあります。スリッパや毛布は高級路線らしい細かな気配りというわけです。
ドリームルリエは東京大阪間でしか運行していませんが、他の路線でもなるべくこれに近い環境を整えることで、深夜の旅はより快適になります。
例えば、4列シートのリクライニング角度はだいたい130度ぐらいが一般的ですが、中にはもっと深く倒すことができるシートもあります。できれば140度くらいまで倒せるバスを探してみましょう。
フットレストやレッグレストもあれば楽になります。レッグレストは太ももを、フットレストは足元を下から支え、腰やお尻にかかる負担を軽減してくれます。
スリッパと毛布がある路線は限られているようです。ですから、自分で持ち込んでしまうとなにかと重宝します。
また、座席を指定することができる場合には、中央やや前方の通路側の席がおすすめです。
バスの空調は前から後ろに向かって流れているので、後ろでは空調が利きすぎて暑さや寒さを感じやすく、前方では休憩のたびに騒がしくなりますし、さらに前方では車のゆれ幅が大きくなって酔いやすいという傾向もあるようです。
中央は空調のバランスも良く、揺れにくいのでより快適に過ごせます。また、通路側の席に座ると、消灯後、脚を通路に広げることができるので、圧迫感が少ないと感じる人が多いようです。
達人が教える真髄とは?
ここまでに登場した達人のコツをまとめると、
・自宅のベッドになるべく近い環境に近づける
・腰と首にバスタオルで作った枕を敷く
・座席は中央の通路寄りがおすすめ
ということになりそうです。
とくに自宅のベッドで寝る感覚になるべく近づけるということが重要で、車中でよく眠られるように前日の睡眠を削ったり、逆に寝貯めしておくのはNG。車中でまったく眠れなくなり精神的にかなり疲れやすくなってしまうのだそうです。
また、直前はバスターミナルや近くのコンビニで歯みがきをして、できたらジャージのようなものに着替えると吉。気持ちも落ち着いてスムーズに眠りやすくなるとのことです。最後に、達人に今後の夜行バスライフについて聞いてみました。
「じつは来週末も新宿⇒高山の夜行便に乗る予定です。片道5時間以上の長旅ですが不安はまったくありません。その後に待っている楽しみの方がはるかに大きいからです。皆さんも、ぜひ夜行バスを使いこなしてアクティブな休日を楽しんでください。」