急な雪かき 腰を痛めない7つのコツとは

天気図は気象庁「日々の天気図」より

いわゆる南岸低気圧が伊豆大島付近を通過するときには、関東平野でも大雪が降る場合があります。

普段雪に慣れていない地域では、雪が降るたびにホームセンターの除雪グッズが相次いで売り切れるなどの混乱ぶり。

突然の除雪作業に体を痛めてしまうこともしばしばあるようです。

どうすれば楽に除雪できるのでしょうか。

日常的に雪かきをしている北国の知恵に学びましょう。

雪かきはバスケの試合と同じぐらいしんどい

これは2016年の東京。最近では数年に1度、このぐらい積もることがありますよね。

2014年には都心でも20センチ近くの雪が積もるなど、天気の具合によっては関東でも大雪が降る場合があります。大雪が積もった次の日には、整体院やマッサージ店に長蛇の列ができることもあるのだとか。

皆さん、慣れない雪かきで腰や腕を痛めてしまったようです。

それもそのはず、雪かきは見た目以上の重労働なのです。

運動不足の体にとってはとっても負荷の強い運動です。

スポーツ毎の運動量を表す単位に「メッツ」というものがあります。

「メッツ」とは、体格などによって運動量の差が出ないように考慮された運動強度の指数で、安静時を1メッツ、歩行時を3メッツなどと定められています。

海外の研究によると、雪かきの運動強度は6メッツ。

これはバスケットボールの試合に匹敵する大きさです。

さらに、雪かきは「スコップを雪に突き立てる」、「雪を切り出す」、「雪を持ち上げる」、「雪を投げ出す」等の全身を使った複合的な運動の集合体。腕の筋肉(上腕二頭筋・三角筋)や背中の筋肉(脊柱起立筋)を中心に、多くの筋力が使われています。

考えてもみてください。

冬の寒い日、急にバスケットボールの試合をやろうと誘われて、どこも体を痛めない自信がありますか?

普段から体を動かし慣れていない人にとって、雪かき後に腰を痛めてしまうのは当然の帰結だといえます。

(※参考)Compendium of Physical Activities: an update of activity codes and MET intensities

体力を技術でカバー コツをつかめば疲れにくい

そもそもどういう姿勢が腰を痛めやすいのかを知っておくことが予防につながります。

下の図は、ある整形外科医が腰にある椎間板への圧力を測定したもの。

何もせずに立っているときに比べ、中腰は1.5倍。ちょうど雪かきでよく見かける中腰で物を持った姿勢は2.2倍もの圧力がかかっていることがわかります。

さらに腰を痛めやすいのが、重たい荷物と体の重心(腰)が離れているとき。

テコを思い浮かべてみましょう。

支点のすぐ近くにあるものは、それほど重さを感じません。

ところが、支点から遠く離れたところにあるものは、同じものでもとても重たく感じます。

このように、重さが同じ荷物でも、重心(支点)からの距離によってかかる力の大きさが変わります。(物理的には力のモーメントといいます。物理の授業で習いましたね。)

腰に大きな力がかかることで、筋肉痛やこむら返り、ひどいときにはぎっくり腰や椎間板ヘルニアを発症してしまうのです。

腰を痛めない雪かきで一番大切なのは、切り出した雪と腰の距離をなるべく小さくすること。

腰を落とし、体の近くで雪を持ち上げるようにすると重たさを感じにくくなります。

雪かきの7つのコツ

〇準備運動を欠かさずに

前出のように、雪かきはバスケットボールレベルの重労働です。

しかも寒さで筋肉の働きが悪くなっているので、体をしっかり温めてから除雪に臨みましょう。

肩回し、腰回しを10回。屈伸を左右10回ずつ。

最低でもこれだけはやりましょう。

〇できれば2人以上で協力して

1人だと時間がかかる作業でも、大人数でやれば早く終わらせることができます。

屋根からの落雪に巻き込まれたときのことも考えると、周囲に人がいたほうがいいでしょう。

〇雪はブロックに分けて切り出す

すくえるだけ一気に持ち運ぶのは、腰を痛める原因に。

まずは雪の塊を四角のブロックに切り出すところから始めましょう。

湿った雪は想像以上に重たいので、人頭大ぐらいが〇。

膝を軽く折り、腰を落としてシャベルを突きさすとやりやすいでしょう。

〇腰を折らない

腰を曲げながら雪かきをすると痛めるリスクが高まります。

相撲の四股のように、背筋を伸ばして足の力で雪を持ち上げるようにしましょう。

〇なるべく体をひねらない

雪を捨てるときに体をひねると腰を痛めやすいので、なるべく捨てたい方向に向き直り、正面に投げ捨てるようにしましょう。

〇水分補給を忘れずに

本格的に除雪をすると、10分20分で汗をかくはず。

雪かきは心臓に負担をかけやすい作業でもあるので、こまめな水分補給はとても大切です。

〇全部を除雪する必要はない

放っておけば数日のうちに雪が解ける関東では、完璧に除雪する必要はありません。

凍ったら危ない玄関周りの雪をどけたり、排水のために側溝や排水口だけ雪をかいたりするだけでも、早く溶けていきます。

須田 力さん(北方圏体育スポーツ研究会)の研究では、ほとんど同じ運動強度(メッツ)でも、雪かきに慣れている高齢者は雪かきに慣れていない無雪地出身の大学生に比べ高いパフォーマンスを発揮することがわかっています。

技術を身に着けることで、体にかかる負担を小さく抑えながら効率よく雪かきをすることができるのです。

(※参照)豪雪地住民の人力除雪の作業能力と体力要素(日本雪氷学会北海道支部)

雪かきは支えあって

雪かきは寒いところで重たいものを持ち上げることで、心臓に負担がかかる動作です。

雪かきをして初めて狭心症が見つかるケースもあり、作業時に胸の圧迫感を感じ休むと収まるといった特徴的な症状が出たときには注意が必要です。

また、除雪中には転倒や屋根からの落雪などさまざまなリスクが潜んでいます。

雪に鳴れた地域でも毎年多くの方がなくなっています。

なるべく一人で作業をするのではなく、多くの人に声をかけて共同で作業をしたいところ。

雪を捨てる場所などはみんなで決める必要もあります。

備えあれば憂いなし。

楽に乗り切るコツをつかんで、突然の降雪に備えましょう。

〇雪かきで腰を痛めたら

腰に痛みが走ったら、まずは休んで様子を見ましょう。

ズキズキと痛みだすようなら氷嚢で冷やしたり、冷感湿布を貼って様子を見ましょう。

それでもつらさが変わらないのなら、医療機関に相談しましょう。

一方、筋肉痛や肩こりのようなハリを感じたのなら、温めながらストレッチをすると緩和されやすくなります。