日本人の平均寿命は過去最高を更新していて、男女ともに80歳を超えています。
1950年代には60歳程度しかなかったのですから、およそ20年も長生きです。
ただし、手放しで喜ぶことはできません。
実は、寿命がやって来る前に相当な寝たきりの期間があって、平均しておよそ10年間も介護が必要になっていることが大きな問題となっているのです。
寿命は延びても寝たきりだったら、果たして幸せといえるのでしょうか。
健康寿命を延ばすためのヒントをご紹介します。
運動が一番いいという神話

もしあなたが定年を迎え、「さあこれからの自分の時間、できるだけ長く楽しんでやるぞ」と意気込んでいるのだったら、どんなことに気をつけていますか。
「なにもすることがないのは、急に老けこむと聞く。運動をしよう」
これはとても正しいことです。
登山でも水泳でもスポーツクラブでも、散歩だって構いません。
できるだけ頻繁に身体を動かして、できればちょっとだけ息が上がるほど足腰を動かしたら、それだけ寝たきりになるリスクは低下します。
筋肉の量は20代をピークに、10年間でおよそ6%ずつ低下していくとされていますが、1週間寝たきりの状態が続くと一気に何年分もの筋肉を失ってしまうことになります。
週に1回とかではなく、なるべく毎日身体を動かしたほうがいいということです。
ですから、お医者さんも口をそろえて運動してくださいと言いますし、だれだって運動が身体に良いことはわかっています。
でも、中には続けられない人もいるでしょう。
むしろ、続けられないという人の方が多いのではないでしょうか。
身体を動かすというのは、若いころからの習慣がない人にとってはなかなかつらいものです。
でも、だからといって健康長寿を諦めることはありません。
実は、健康寿命を延ばすのはなにも運動だけではないのです。
それどころか、運動は数ある活動のうちのひとつでしかなく、1番良い活動というわけでもないのです。
東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授は、「身体活動(=運動)」「文化活動」「ボランティア・地域活動」とフレイル(要介護前段階)の関連を調べました。
それによると、もちろん全部の活動を行っていた人はフレイルになるリスクが小さいし、どれか1つより2つ行っている人の方が、リスクが小さいということがわかりました。
そして、なんと「身体活動」だけを行っていた人たちよりも、「文化活動」か「ボランティア・地域活動」だけを行っていた人たちの方が、フレイルになるリスクが小さかったのです。
つまり、運動だけを行うよりも、誰かと囲碁や将棋を指したり、みんなでごみ集めをしたりする方が健康長寿につながるということ。
飯島教授は、文化的な趣味でも、誰かと出かけたらそれだけ運動する機会が増えるので、本当に大切なのは、好きなことで社会参加を続けることだとしています。
それどころか、社会とのかかわりが少ない人ほどフレイルになりやすいことがわかっているので、運動をするにしても独りではなく、みんなで集まっておしゃべりしながら行う必要があるということです。
病は気から、“社会的孤立”が寝たきりの入り口

この、「フレイルを予防する」という考え方は、いまや介護防止のための当たり前になっています。
例えば、東京都の『フレイル予防』の冊子を見ると、健康長寿に大切なこととして「運動」「栄養」「社会参加」がとても大切だとしています。
それぞれが弱ってくると「身体の衰弱」「こころの衰弱」「社会性の衰弱」につながり、まるでドミノ倒しのように次々と悪い方向へ進んでいってしまいます。
中でも社会参加の機会が低下することは、衰弱の最初の入り口になってしまうことがわかってきており、一番大切な要素だと考えられています。
趣味、ボランティア、再雇用など何でも構いません。
自分が好きな活動で社会とのつながりを持ち続けることが健康長寿を目指す上でなによりも大切なことなのです。
人間は社会性の動物とはよくいったもの。
人と関わることがそのまま私たちの生存戦略なのです。