外反母趾は足の親指の先が人差し指に向かって「くの字」型に曲がってしまう症状で、親指の付け根が靴と擦れて痛むようになります。さらに変形の度合いが進行すると、人差し指が押されて脱臼してしまうこともあり、ひどい場合には靴を履いていなくても痛みが続いてしまいます。
このような親指の変形は、ハイヒールやパンプスのような、かかとが高く、先が細くなっている靴に指が圧迫されてしまうことで引き起こされていると考えられています。たしかに靴は最大の原因ですが、実はこれだけが外反母趾の原因ではありません。ハイヒールを一度も履いたことがない小学生や、靴を履く習慣がない地域の人であっても、外反母趾の人がある程度いるのです。
いろいろな要因を知ることから、外反母趾への効果的な対策を考えていきましょう。
外反母趾の原因は靴よりも遺伝?
人間の足の親指はもともと10度ぐらい外側(人差し指側)に傾いているので、少し曲がっているぐらいでは外反母趾だとはいえません。『外反母趾診療ガイドライン』によると、20度以下のものを【軽度の外反母趾】、21度~40度ぐらいのものを【中度の外反母趾】、それ以上のものを【重度の外反母趾】としています。数字だとなかなかイメージがわきづらいかもしれませんが、時計盤に当てはめると、分針が3分~4分ぐらいの位置が軽度で、それ以上がちょっと重たい外反母趾だということになります。中度以上の外反母趾は、放っておくとどんどん進行してしまうおそれがあるため、痛みがなくても早めに対策を取る必要があります。
よく知られているように、外反母趾の一番の原因はハイヒールのような靴を履くことです。幅が細く、つまさきに行くほどどんどん狭くなっているような靴を履くと、歩くたびに親指の先が強く圧迫されて、次第に変形していってしまいます。日本人はかつて靴よりもワラジや草履をよくはいていました。このころには外反母趾は今ほど多いものではなく、急増したのは靴をよく履くようになってからです。靴下に靴を履いて生活している人と、裸足に草履で生活している人を比較したところ、草履で生活している人の方が親指の曲がり方が小さかったということも報告されているのです。(外反母趾診療ガイドライン2014より)
ところが実は、どうも靴だけが外反母趾の原因だとは言い切れないようです。確かに、靴を履く文化が浸透してから外反母趾に悩まされる人は急増しているのですが、靴が入ってくる前から外反母趾の人はある程度いたはずなのです。生涯にわたって靴を履く習慣がない地域でも、欧米の10分の1程度という割合ながら、外反母趾が見られるようです。(日本足の外科学会より)さらに、外反母趾の父親を持つ娘は外反母趾になりやすい傾向があることからも、外反母趾には遺伝的な要因が深く関わっていることが考えられます。
このような調査結果から、最近では遺伝的になりやすい要素を持った人がハイヒールなどの靴を履くことで外反母趾になってしまうのでは、といわれているのです。
もう一つの見過ごせない要因、「足の指」使えていますか?
外反母趾というと、社会人になってパンプスなどのかかとが高い靴を履くようになってから症状が進んでいくのが一般的だとされていますが、最近ではヒールが高い靴を一度も履いたことがないような小学生、中高生、さらには男性にも外反母趾の人が見られるようになってきました。このようにハイヒール以外で起こる外反母趾には足の形が深く影響しています。外反母趾というと指の変形にばかり目が行きがちですが、元をたどると扁平足や開帳足といった、足裏のアーチの崩れがきっかけになっているケースが多いようです。
扁平足というのは、土踏まずにある縦のアーチがなくなってしまった状態で、開帳足というのは指の付け根にある横のアーチがなくなってしまった状態です。縦横のアーチはいくつもの骨が連結してできていて複雑な構造をしています。このうちの骨や骨を引っ張る靭帯に異常があると、アーチが崩れて正しく機能しなくなり、いろいろなトラブルの元になってしまいます。遺伝的に外反母趾になりやすい人というのは、もともとこのアーチ構造が弱い人と考えることもできそうです。
扁平足は重心が内側に寄ってしまうため、親指側に荷重がかかることで外反母趾の悪化につながりやすい状態です。また、横のアーチが崩れると足裏の幅が広がるため親指の付け根が靴にあたりやすく、痛みを引き起こす原因になります。
このようなアーチの崩れは、日常生活での足の使い方が積み重なって引き起こされています。具体的な例を見てみると、たとえば上履きのかかとをいつも踏み潰してはいている学生は、そのままでは靴がすっぽ抜けてしまうので、脚の指を曲げて踏ん張りながら靴を履いている傾向があります。靴紐がいつも緩い場合にも同様です。そうすると、指で地面を蹴るのではなく、指の付け根を使って「指上げ歩行」をするようになります。また、大きすぎるような靴を履いている人では重心をかかと側に乗せて、指を覆いに引っ掛けることでバランスを取るというような癖のある人もいます。
このように、足指を使わずに生活することで足底の筋肉が衰え、さらにそこに体重の増加や運動量の増加などが加わると、アーチ構造が崩れやすくなり、部活動が始まる中高生に起こる扁平足は思春期扁平足と呼ばれています。もちろん大人になってからでもアーチの崩れは起き、とくに中年期以降の体重増加や筋力低下に伴う扁平足、外反母趾には注意が必要です。(参考:日本整形外科学会)
外反母趾になりやすい人の特徴
〇ハイヒールのようなかかとが高い靴や足よりも幅の広い靴をよく履く
〇足の指の中で親日が一番長い(エジプト型の足)
〇親が外反母趾だ
〇扁平足がある
〇まっすぐ立った時、かかとが内側に傾いている
〇昔に比べて太った
〇若い頃に比べて体力が低下してきた
〇人から変わった歩き方をしているとよく言われる、ぺたぺた歩く傾向がある
上のような項目に心当たりがあり、親指の傾きが軽度~中度に差し掛かってきたのなら、痛みが出ていなくても早めに対策を始めましょう。靴選びや履き方を見直すことで、進行を遅らせたり、痛みを出にくくしたりといったこともできます。
家の中では鼻緒付きのサンダルを
これまで見てきたように、外反母趾というのは親指が人差し指に向かって曲がってしまう症状なので、親指の側面が痛んだり、靴に当たりやすくなったりするだけでは外反母趾だとはいえません。しかし、その状態が続くと指が変形して外反母趾になってしまう可能性があるので、普段からなるべく指を圧迫するような靴をはかないことが重要です。ヒールの高い靴を履く時間を短くしたり、靴を履いていない時間には足の指や足の裏を揉むようによくマッサージするようにするといいでしょう。
マッサージと同時に足裏の筋肉を鍛える運動をすることも有効です。足指を使ってタオルをたぐり寄せてリボンを作る「タオルギャザー」という訓練や、両足の親指にゴムバンドを引っ掛けて広げるように引っ張る「ホーマン体操」、足指でグーチョキパーを作る「足指ジャンケン」をそれぞれ1日10回ぐらいやってみましょう。
また、足の指を使って生活するという観点から考えると、鼻緒付きのサンダル(ビーチサンダル)は非常に有効です。サンダルは指が圧迫されないという点からも外反母趾の人に適しています。家の中ではスリッパの変わりにビーチサンダルを履いて生活するのもいいでしょう。
外反母趾は20度以上の中程度になると、何もしなくても加齢とともに進行してしまう可能性があります。当てはまる人は対策を始め、痛むという人は病院で一度診てもらうことをオススメします。