肩こりに悩んで歯医者に行く人が多い理由

意外に思われる方も多いかもしれませんが、肩こりで歯医者を受診したいという人が増えています。いったいなぜ?背景には歯の痛みやかみ合わせが肩こりを引き起こすという意外なメカニズムがありました。

切っても切れない深い関連がある、あごと肩。原因不明の肩こりを解決するヒントになるかもしれません。

肩こりと歯痛はお互いに影響しあっている

以前は街の歯医者の治療内容といえば、ほとんどがむし歯。現在働き盛りの世代には、子ども時代から歯医者のお世話になってきたという人が多いかもしれません。ところが、むし歯予防の努力が実を結んだ結果、今の子ども世代ではむし歯の数が激減し、むし歯治療だけでは経営が成り立たなくなりつつあるようです。そのような背景から、最近では予防歯科(PMTC)とか、かみ合わせの治療に力を入れる歯医者が増えてきています。

特にかみ合わせを重視している歯医者の中では、患者に肩こりや頭痛がないかを頻繁に確認することがあります。実は、歯の痛みやかみ合わせがこうした各所の症状に伝播してしまうことがあるのです。

たとえば、歯やあごに違和感が生じる顎関節症では、肩こりが同時に起きていることが多いことが知られています。顎関節症であごの筋肉が緊張し、これが伝播して肩にある僧帽筋の緊張に発展してしまうと考えられています。

・あごの痛み

・歯ぎしり

・口内や下に歯型がつく

・最近舌を噛むようになった

等のかみ合わせ異常を示唆する症状があるなら、あなたの肩こりを解決するカギは歯やあごが握っているかもしれません。整形外科や内科だけではなく、歯医者も選択肢に入れてみましょう。他にも、かむ力というのは体のいろいろなところに影響を与えています。

肩こりが歯の痛みを引き起こすパターンも

逆に、肩こりを引き起こす要因が歯の痛みを招いているケースもあります。

肩や首はおよそ5kgもある頭を常に支え続けています。肩にはこの頭の重さと、さらに腕の重さが常にかかっている状態で、これが肩こりを引き起こす要因にもなっています。姿勢がいいときにはまだ良くても、猫背のような前傾姿勢になると下の図のように頭は体の軸に比べて前に突き出された状態になります。

典型的な猫背&ストレートネック。スマホ肩と呼ばれるように、うつむきがちであることが主な原因です。

物理の法則のような難しい話を持ち出すまでもなく、重たいものを体の軸から離して支えると負担が増してしまうように、前傾姿勢になることで首や肩にかかる負担は増え、筋肉の張り感や凝りにつながります。これが肩こりを引き起こしているのです。

さらに悪いことに、前傾姿勢になることであごが前に出やすくなり、かみ合わせが変わってしまうことがあります。噛み合わせが変わり、歯に大きなストレスがかかった状態が続くと、歯が浮くように感じたり、あごの関節に痛みが生じたりといった違和感を覚えやすくなります。

歯痛は引越しや転職など、環境の変化や大きなストレスがかかった状況でよく起こります。実はこれは肩こりが悪化しやすい状況とも重なっていて、両者には深い関連があることの表れです。環境が変化したり、急にストレスが増えたときは、肩こりだけではなく歯痛や顎関節症などお口のトラブルにも気を付けましょう。

「危険な痛み」胸も痛む場合は心筋梗塞の可能性も

肩こりや歯の痛みは、ほとんどのケースで命に関わるような重大な病気ではありません。しかし、非常に稀ですが、中には一刻を争うような重大な病気が隠れているケースもあります。肩こりや歯の痛みに加えて、胸も痛むようなケースには心筋梗塞の可能性があることが知られています。

なぜ心筋梗塞で肩や歯まで痛みが伝播するのでしょうか。心臓の神経系は肩や歯に影響を与えやすい位置にあり、肩や歯にまでも痛みが拡散する特徴があるためで、このような離れた場所の痛みを専門的には『関連痛』と呼んでいます。

心筋梗塞は急性の場合、強い胸の締め付けを感じます。しかし、中には微小血管狭心症のように、だるさや肩・背中の痛み、歯の痛み、吐き気・胃痛など、一見して自立神経失調症や更年期障害のような症状が主で、見逃されてしまうケースもあります。微小血管狭心症は40代から50代の女性に多いことが知られています。どんどん症状が重くなる、階段の上り下りで肩が痛むなどの症状に思い当たる節がある人は、すぐに医療機関に相談しましょう。

自分でできる対処法

〇姿勢の悪さを改善

肩こり解消のためにも、あごに負担をかけないためにも、猫背の改善を心がけましょう。猫背を改めるためには、胸を張り、腹筋に力を込めてお腹を引っ込ませるように意識することが大切です。背筋を伸ばし、真上を見上げうなじの生え際を起点にするイメージで首をまっすぐに戻しましょう。あごは少し引き気味に。

気持ち悪さを感じるかもしれませんが、これが本来の正しい首の位置です。作業に集中するとストレートネックになりやすくなります。意識して首の位置をリセットしましょう。

〇あごのストレッチ

あご周辺をほぐすことで、あごのトラブルを予防しましょう。あごの筋肉が固い状態を放置すると、歯痛や顎関節症などの症状に発展してしまうことも。あごが痛い、かみ合わせに違和感がある人はぜひストレッチであごをほぐしましょう。

あごのストレッチはできるだけ鏡に向かって行いましょう。動きをチェックしながら行えてストレッチの効果を十分引き出せます。

1.口を大きく開けて10秒キープ

2.下あごを突き出し(しゃくれのイメージ)15秒キープ

3.反対に下あごを引っ込め15秒キープ

4.口を閉じて、下あごを左右にずらして15秒ずつキープ

以上のセットを3回繰り返しましょう。痛みを感じる場合は、あくまで痛みが出ない範囲までで行います。あごを意識して動かすことで、今まで気が付かなかった症状に気が付くことがあります。

重症化していると感じたら、専門医に相談しましょう。

原因を見極めて

「肩こりで歯医者」は変ではありません。実際に肩こりとかみ合わせの関連をアナウンスする歯医者は数多く存在します。

肩、歯、あごの痛みや違和感はそれぞれ複雑に絡み合い、どれが根本原因だかすぐにわからないかもしれません。

・虫歯や歯の欠けはありませんか?

・歯ぎしりや噛みしめなどであごを酷使していませんか?

・最近、急にストレスが増えていませんか?

歯に異常があるのならまず歯を、ストレスが増えたのなら心を見つめなおして原因を根本から治しましょう。