―――歩きに勝る良薬はなし
医学の父と呼ばれる古代ギリシアの偉人、ヒポクラテスの言葉です。
医学が発達した現代でも、歩くことが健康にいいのは常識ですが、あなたはその効果をどこまで具体的に思い浮かべられますか?
ウォーキングにはあなたの想像のはるか上を行く程多くの効果が認められています。
どのような効果があるのか、少しのぞいてみましょう。
高血圧や認知症予防も。健康寿命伸ばすウォーキングの効果
心筋梗塞、脳卒中、うつ病、一部のがん、糖尿病……。
すべて適度なウォーキング習慣によって、発生するリスクを低下させることができる病気です。
ウォーキングに代表される有酸素運動には、命を落とす危険がある病気を予防することから、健康寿命を延ばすことまで、さまざまな健康効果があることがわかっています。
驚きのその効果を、個別に詳しく見てみましょう。
〇肥満を予防する
ウォーキングによる運動により、過剰に取り込んでしまったカロリーの一部を消費することができます。
また、大腸の働きを活性化することでお通じが良くなることも肥満予防につながります。
ただし、ウォーキングによる消費カロリーは1時間当たり190kcalほどといわれ、ジョギングや水泳に比べると半分以下。
カロリー消費を高めるためには長い距離を歩き続ける必要があります。
〇心肺機能を高める
心臓から遠く離れた脚の筋肉に大量の血液を送り出す必要があるため、全身の血液循環がよくなり、酸素摂取量も増加し、心肺機能が高まります。
長時間歩行することにより全身持久力も向上します。
心肺機能の向上は、心臓血管病の予防につながります。
心筋梗塞二次予防に関するガイドラインでは、週5時間以上のウォーキング習慣がある人は、スポーツ参加時間が週1~2時間程度の人に比べ、冠動脈疾患の死亡リスクが50%低いことが示されています。
〇高血圧を予防する
ウォーキングの適度な運動により、タウリンやプロスタグランジンなどの血圧を下げる物質の分泌が促され、高血圧が改善されます。
また、悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やすことで高血圧を引き起こす動脈硬化を予防します。
高血圧の改善は、心筋梗塞は脳梗塞、腎臓疾患のリスクを軽減します。
高血圧治療ガイドライン(2014)では、運動習慣の見直しにより上の血圧で5mmHg、下の血圧で2mmHg程度の降圧があることが示されています。
〇骨粗しょう症を予防する
骨粗しょう症の予防には、カルシウムの摂取と適度な運動、日光浴が必要とされています。
ウォーキングにより骨芽細胞を活性化させ、骨密度を高めます。
骨太効果により、骨折による寝たきりを予防することにつながります。
「骨粗しょう症の治療と予防ガイドライン(2015)」では、閉経後の骨量減少・骨粗しょう症患者について、週3日以上のウォーキングで骨密度が上昇することが示されています。
〇認知症を予防する
歩くことで全身の血行が良くなるのと同時に脳も活性化します。
また、五感からの刺激が加わることも脳を活性化し、認知症やうつ病の予防につながります。
厚生労働省のホームページで公開されている「認知症予防・支援マニュアル(改訂版)」では、ウォーキング程度の運動を週3回以上行っている人は、運動習慣がない人に比べアルツハイマー型認知症の危険度が33%低いことが示されています。
〇糖尿病を予防する
糖尿病の予防には食事療法とともに運動療法が必要不可欠です。
ウォーキングにより血中の過剰な糖分が消費され、血糖値が下がります。
また、インスリンの働きが活性化され、メタボリックシンドロームの予防につながります。
日本糖尿病学会がまとめるガイドライン(2013)では、日常的な身体活動量が多い日本人男性は、活動量が少ない人よりも2型糖尿病のリスクが27%低いことが示されています。
なんとか会話できるペースで20分
は、どのようなペースで、どのぐらいの距離を歩けばいいのでしょうか。
人としゃべりながら散歩をするのも、息が上がるほど早く歩くのも言葉の上では同じウォーキングです。
厚生労働省などでは、健康維持のために一日8000歩が目標とされていますが、ペース配分によってその運動強度もかかる時間も大きく変わってきてしまいます。
群馬県中之条では、65歳以上の住人5000人を対象にした13年間におよぶ大規模な追跡調査が行われました。
アンケート調査のほか、「身体活動計」による歩数やウォーキング強度の測定を行い、健康診断の結果と照らし合わせることで、運動習慣ごとの病気のリスクが詳細に調べられました。
その結果、実はウォーキングのペースや歩数によって、病気のリスクも段階的に変化するということがわかりました。
具体的には、5000歩以上・中程度活動時間7.5分以上のウォーキングで認知症、心疾患、脳卒中のリスクが低下し、8000歩以上・中程度活動時間20分のウォーキングで高血圧や糖尿病のリスクが明らかに減っていたのです。
加えて、これ以上の歩数や活動時間では効果が頭打ちになっていたことから、最も効果的なウォーキングは一日に8000歩・中程度活動時間20分であるという結論が導き出されました。
中之条研究(東京都健康長寿医療センター研究所 青栁幸利・運動科学研究室長)
この中程度の活動とは運動強度のことを指し、イメージとしてはぎりぎり会話ができる程度のペースが当てはまります。
人によって体力の度合いには違いがあることから、適切な運動強度は人によって異なり、一律に時速〇〇m/sと定義することはできません。
多くの人に当てはまる目安としては、大股で少し早く歩く、階段を上るといった動作が当てはまるようです。
ウォーキングをする際には、このようなことを取り入れるようにして、健康の維持に役立てましょう。
歩くことはすべての運動の基本であり、最も簡単にできる体調管理の方法でもあります。
必要に迫られての歩行の他に、積極的に健康のためのウォーキングを取り入れるようにしたいところです。