今年からランニングを始めたという人も、すでに何度か大会に出たという人も、自分のランニングフォームについて納得いかず壁にぶつかってしまうことがよくあります。
運動にはそれぞれ最も効率的にパフォーマンスを上げるためのフォームがあって、ランニングも例外ではありません。より長い距離、より速いタイムへとレベルアップを狙うならランニングフォームの工夫は必要不可欠です。もちろん、正しいフォームにはケガを防ぐという役割もあり、理想のランナー人生を歩むならフォーム改善は待ったなし!
このように考える人が多いのは自然の流れで、多くの要望を反映してか、ランニングの解説書やインターネット上のランナー向けサイトには、必ずといっていいほど【お手本となるフォーム】が説明されています。ところが読んで頭に入れたつもりでも、押えるべき項目はたくさんあってひとつひとつ確実に実践するのはなかなか難しいものです。
どうすればフォームの問題をクリアできるのでしょうか?
ヒントになるかもしれない考え方をお伝えします。
ランニング初心者の7割は挫折、原因はケガ!?
東京マラソンをはじめとする全国のマラソン大会が追い風となり、今や2000万人を超えるランニング・マラソン人口(レジャー白書2016より)。2013年のレジャー白書では、最近5年以内に始めた(もしくは再開した)種目でランニング・マラソンは3位に入っていることからもわかるように、ここ近年のスポーツ熱・健康ブームを受けて、さまざまな理由で運動を始めてみた人が非常に多いようです。自分のペースで気軽に始められるということも、ランニングが人気を集める一つの要因になっているのでしょう。
ところが、同じ調査で最近止めた種目でもマラソン・ランニングは3位に入っているのです。これはいったいどういうことでしょうか?
別の調査ではランニングを初めて1年以上継続できた人は全体のわずか28%にとどまり、7割以上の人が1年も経たずに挫折して止めてしまうという結果が出ています。つまり、多くの人が気軽に始めてみたのはいいものの、何らかの理由ですぐに止めてしまっているということです。
レジャー白書によると、ランニング・マラソンを止めた理由で最も多いのは「年齢や健康状態・体力に合わなくなったから」。年齢とともに長い距離を走る体力が落ちてしまうことや、膝や足首を痛めてしまうことが主な要因です。「走りたいのに走れない」もしくは「健康のためと思っていたのにかえって不自由な体になった」では、あまりにもったいないことです。また、いくら頑張って練習しても走行距離やタイムという結果に結びつかないと、そのうちに走ること自体に面白さを感じなくなってしまうこともあるでしょう。
ランナーならピンと来たかも知れませんが、どちらもランニングフォームに深く関連している問題です。ケガを起こしたり、やる気を失ってしまったりする前に、初心者だからこそ負担の少ないランニングフォームを身につけておくべきなのです。

大切だとわかっていても……難しいフォームの改善
このようなケガの危険性を説明するまでもなく、フォームを改善することの重要性は多くの人がわかっているはずです。
もちろん、一人ひとり体格や得意な動作が異なるので、最もよいフォームは少しずつ異なるものだと考えられますが、あまり体格に縛られない典型的なランニングフォームの注意点をいくつか挙げてみると、下の図のような感じでしょう。

どれも確実に身につけた方がいい項目です。
ところが、これまであまりフォーム改造に取り組んでこなかった市民ランナーがいきなりこのようなポイントを全てこなそうと思うと、相当難しいと判断せざるを得ません。あまり細かい動作に気を配りすぎると、全体の動きまでぎこちなくなり、余計にバランスを崩してしまいます。
では、フォームの改善はどのように進めればいいのでしょうか?
その秘訣は動作のオートメーションにあります。
ランニングのフォーム修正、カギは楽器の練習
動作のオートメーションを理解するために、楽器の演奏を思い起こしてみましょう。
初心者のうちはやるべきことが多すぎて指の運びを間違えないように追うだけで精一杯なものですが、同じフレーズを反復して練習することで何も考えなくても正しい動作を行うことができるようになり、周りの演奏に合わせてリズムや強弱を調整するといった高度なこともできるようになっていきます。これが動作のオートメーション(自動化)です。
フォームの練習はまさにこれと同じようなことが当てはまり、フォームに気をとられて競技に集中できない段階を脱出するためには、フォームを自動で行えるような反復練習がまず必要になってくるのです。
たとえば、ランニングでは胸をやや張って、背筋をピンと伸ばした姿勢を保つことが呼吸を安定させ、腕を効率的に振るためにも大切なことです。
しかし、普段の姿勢が猫背気味の人は意識しないでいると自動的に猫背に近い姿勢になってしまうため、フォームを維持するためには常に胸と背筋に意識を向け続けなければいけません。気を抜けないため必要以上に疲れてしまいますし、なにより現実的に考えてずっと続けることは困難です。
正しい上半身のフォームを身につけるためには、なるべく普段から上半身が一本の棒になったような意識を持って、いい姿勢で生活を続けることが大切です。日常生活の中で続けることができれば、姿勢を支える体幹が自然と身につき、意識しなくてもできるようになっていくはずです。
この練習は競技とは直接関係がないように見える上、なかなか成果が見えずらいので、モチベーションを失いやすいかもしれませんが、楽器の練習だと思って辛抱強く続けることが上達のコツです。
テーピングを使って身体を動かす
スポーツ初心者には少し馴染みが薄く、ハードルが高いと感じてしまうかもしれない「テーピング」。実は、初心者のうちであっても積極的に活用した方がいいものです。
たとえどこも負傷していなかったとしても、テーピングを適切に施すことで膝や足首の負担を軽減できてケガの予防になります。しかも、テーピングを施すことで必要以上に足運びが慎重になることを防げ、フォームの改善にもつながります。
ランニング障害が出やすいのは、土踏まず、足首、膝。この3箇所の中で少しでもランニング中に不安を覚えた経験があるのなら、意識改革のためにテーピングを試してみるといいでしょう。
フォームの役割、第一はケガをしない
長距離ランニングにおける正しいフォームというのは、長い距離でも体の負担を少なく走りきり、ケガを抱える可能性を減らすような身体の使い方です。
ケガをせず長く走り続けるためには、正しいフォームを身に着けることが非常に重要であることを否定する人はいないでしょう。テーピングの力も借りながら、継続して取り組んで欲しいと思います。
【プラスα】ケガを防ぐにはクロストレーニングが重要ですよ!
自分の専門以外の種目のトレーニングをすることをクロストレーニングといいます。
たとえば、プロ野球選手がオフシーズンにフットサルをやったり、サッカー選手が水泳のトレーニングを行ったり、といったことがクロストレーニングの事例として挙げられます。
クロストレーニングを取り入れることでよく使う体の部位が偏ってしまうことを防ぐことができ、オーバーユースによるケガの予防につながるため、マラソンのようなケガをしやすい競技では意識的にクロストレーニングをすることが重要です。

ランニング・マラソンは、骨や関節、特に下半身の各関節(股関節・膝・足首)に負担がかかりやすい種目です。一方、筋力はそれほど必要ありません。そこでクロストレーニングでは、下半身に体重がかからず、筋力が必要な種目を取り入れてみましょう。
一番いい好例は「水泳」でしょう。下半身の関節にあまり負担を掛けることなく、全身の筋力を鍛えることができるので、ランナーのクロストレーニングとしては最適でしょう。他にも、下半身に負荷をかけずにできる筋力トレーニング(体幹トレーニングなど)がランナーのクロストレーニングに向いています。
本格的にマラソンを始めた人は、週に2日はランをお休みして、代わりにそのうちの1日を使ってクロストレーニングを取り入れてみましょう。