親族の介護はいつか必ずくる、避けては通れない「その時」です。
その介護の現場で大きな健康問題になっているのが腰痛です。
介護職員がつくる労働組合の報告書では「腰痛」と「肩こり」が職業病として挙げられ、職員のおよそ6割が悩まされているとしています。(参考:全国労働組合総連合『2014年版「介護施設で働く動労者のアンケート」と「ヘルパーアンケート報告集」』)
私たちが在宅介護をするときには、どのようなことに気をつけたらいいのでしょうか。
注意すべきポイントと対策を紹介します。
「抱き上げ」「中腰」に要注意
中央労働災害防止協会が発行する「労働衛生のしおり」によると、平成26年の労災としての腰痛の件数は、介護士や看護師を含む保健衛生業がトップでした。
体の自由が利かない人を抱きかかえたり、立たせたりする介護は、腰痛が起こりやすい作業であることは想像に難くありません。
腰痛を理由とした退職や休職も決して少なくないといわれています。
平成27年に宮城県内の社会福祉施設のスタッフを対象に行われた腰痛の実態調査では、男女ともに急性腰痛症(ぎっくり腰)、椎間板ヘルニア、腰椎分離症・すべり症、腰部脊柱管狭窄症など、さまざまなタイプの腰痛が発生していることが明らかになりました。(参考:宮城産業保健総合支援センター『社会福祉施設における腰痛予防対策に関する調査研究』)
その中でもとくにぎっくり腰が占める割合が最も高く、ベッドから車いすへ移し替える移乗介助などの人間を抱きかかえるタイミングでぎっくり腰などの腰痛を発症するケースが多いことが判っています。
腰痛が発症したのはどのようなタイミング?
・移乗介助 251件
・おむつ交換 219件
・入浴介助 199件
要介護者を抱きかかえたり支えたりするとき、いかにして腰に負担がかからない体の使い方をするかが腰痛を予防する上でもっとも重要なポイントなのです。
当たり前のことですが、「腰痛あり」と答えたスタッフのほうが、中腰などの腰に負担がかかる業務が多かったことがわかっています。
しかし、意外なことに「腰痛あり」と「腰痛なし」のスタッフの間で、労働時間や運動習慣に差はありませんでした。
それよりも腰痛のリスクになることがわかったのが、20歳時に比べてどれだけ体重が増加したかです。
「腰痛あり」と答えたスタッフは、20歳時に比べて明らかに体重が増加している傾向があったのです。
つまり、姿勢だけではなく、体重増加も腰痛の重大なリスクになりえるのです。
要介護者よりも体勢を低く、下から支える
「抱き上げ」や「中腰」の体勢でぎっくり腰を発症する人が多いということは、腰痛を防ぐために大切なのは重さを支えられる筋力と、腰に負担をかけない体勢を身に着けることです。
では、腰に負担がかからない姿勢とはどのようなものなのでしょうか。
各姿勢をした時に腰椎(背骨の腰に当たる部分)にどれぐらいの圧力がかかっているかを示した図です。
図をみれば明らかなように、前かがみになるだけで腰への負担は1.5倍に増加してしまいます。
また、前かがみのまま重たい荷物を持つと、腰への負担はもっと大きくなります。
介護では、前かがみのまま要介護者を抱き上げたり、移動させたりする動作をしなければいけないことがあります。
こうした動作が、介護をする人の腰痛リスクを高めているのです。
こういった姿勢をなるべく避けるため、次のようなことに気を付けましょう。
負担の少ない介護姿勢
〇背骨をまっすぐに保つこと。
「気を付け」のように、背筋が自然なS字カーブを描き、左右にも偏りがない状態を保ったまま介護の作業をしましょう。
〇腕力だけで持ち上げたり引っ張ったりしないこと
腕力だけに頼ると、若い男性でも腰を痛める可能性が高まります。
体の軸を要介護者に近づけ、足腰の力をうまく使って持ち上げるようにしましょう。
〇相手よりも低い位置に腰を落とし、下から持ち上げること
前かがみの姿勢を避けるために、要介護者と同じ高さで作業をするのではなく、要介護者の下に入り、下から持ち上げるようにしましょう。立ち上がる力がそのまま持ち上がる力になり、負担が減ります。
〇前後に引っ張るとき、足を前後に開くこと
足を前後に開いて膝を曲げると、膝の力が利用できるため、より少ない力で重たいものを動かすことができます。
また、前かがみの姿勢を避けるため、低すぎるベッドの高さをあげ、背上げや脚上げなどの機能がある場合には活用するようにしましょう。
車いすからの移乗の際には、可能であればスライディングシートなどの補助器具を使うと効果的です。
補助的に腰に巻いて使用する「腰痛ベルト」を着用することも検討するといいでしょう。
一方、アンケートで明らかになったのが、体重増加が腰痛リスクになるという事実です。
20歳時の体重を維持し、とくに女性ではBMIを22以下に保つことが、年齢が上がるにつれますます重要になっているようです。
『社会福祉施設における腰痛予防対策に関する調査研究』提言(抜粋)
〇作業に必要な筋力を確保し、腰痛体操で柔軟性を身に着けること。必要に応じて腰痛ベルトを使うことなど、腰痛を予防する習慣を身に着けること。
〇作業の仕方や作業姿勢に十分注意して、腰痛予防に努めること。
〇体重の増加は腰痛のリスクとなるので、なるべく20歳の体重を維持することを心掛け、女性ではBMI22未満にする。
腰痛体操でリスク減らして
ただ、こうした腰痛予防の対策をとっても、疲労がたまると腰痛の発症リスクが高まることは避けられません。
そこで厚生労働省や労働災害防止協会では、腰周辺の緊張を和らげる腰痛体操を推奨しています。
手すりや壁などを利用して、体をひねって伸ばす体操をしたり、体を前屈させる体操をしたりと腰のストレスを軽減しましょう。
小まめに予防対策を実施することで、腰痛にならずに介護を続けることができます。