慢性的な運動不足から、肩こりや腰痛、膝痛など体の痛みを抱える人は年々増加しているといわれています。
こうした慢性痛の症状緩和のために、日常的に整骨院や鍼灸院、マッサージ院を利用している人も多いのではないでしょうか。
整骨院や鍼灸院の中には【各種保険適用】といった看板を掲げているところがあります。
健康保険で安く施術を受けられるなら、そうしたほうがいいに決まっている、というのが消費者として当然の心理。
できるものなら肩こり施術にも健康保険を適用させたいところですが、はたして適用されるのでしょうか。
結論から言うと、肩こりに健康保険が適用される見込みは原則としてありません。
一方、腰痛や膝痛の施術では一部で健康保険が適用できる可能性があります。
複雑でわかりづらい施術院の保険事情。
どのような場合だったら健康保険が適用されるのでしょうか。
詳しい仕組みを確認しておきましょう。
整体・カイロプラクティックは健康保険が適用されない
まず押さえておきたいのが、整体院やカイロプラクティック院では例外なく健康保険が適用されないという点です。
厚生労働省は整体やカイロプラクティックを民間療法と位置づけているので、健康保険の適用外です。
施術の全額を自費で負担しなければなりません。
一方、整骨院、鍼・灸、あん摩マッサージならどうでしょうか。
実は、これらも保険医療機関とは認められていません。
しかし、これらは日本で西洋医学による治療が一般的になる以前から骨折や打撲などの治療に貢献し親しまれてきた療法です。
こうした背景を踏まえ、一部の例外に限り健康保険が使えると定められています。
それぞれどのようなときに健康保険を利用できるのでしょうか。
〇マッサージ
近年のリラクゼーションブームの波に乗り、手もみマッサージやリフレクソロジーなど様々なマッサージ店が出店していますが、保険の対象になるのは「あん摩マッサージ師」の国家資格を持つ治療家による施術に限られます。
保険適用の対象になる症状は次のようなものです。
・筋麻痺
・関節拘縮
・以上のものに類すると医師が判断した症状
慰安目的のマッサージは保険の対象にならず、骨折や手術後、脳こうそくなどの後遺症が残り、医師があん摩マッサージ師による施術が必要と判断した場合に限られます。
医師の合意書の効力は3カ月で、長期的な治療を望む場合は3カ月ごとに医師の合意が必要です。
また、病院とは異なり、支払い時に控除されるわけではなく、療養費支給申請書を提出後、後日支払われます。
控除には領収書が必要です。必ず大切に保管しておきましょう。
〇鍼灸
鍼・灸の施術を受ける際、一定の条件を満たせば「療養費」として保険の適用対象になります。
ただし、どの鍼灸院でも保険が利用できるわけではありません。
マッサージのときと同様に「鍼師・灸師」の国家資格を持つ治療家が施術を行う必要があります。
鍼灸院で保険の適用対象になるのが以下の傷病です。
・神経痛
・リウマチ
・五十肩
・頚腕症候群
・腰痛症
・頸椎捻挫後遺症
保険を適用させるためには、医師による事前の診断と保険適用の合意が必要です。
合意書の効力は3カ月。3カ月を超えて鍼灸施術を受ける場合は改めて医師の合意を得る必要があります。
注意が必要なのは、医師による治療と鍼灸治療を平行して受けている場合。
同じ症状に対して治療を行う場合、鍼灸施術に保険を適用することはできません。
また、鍼灸院でもその場で施術費が控除されるわけではありません。
療養費支給申請書を提出後、後日支払われますので、領収書を忘れずに保管しておきましょう。
〇整骨(接骨)
整骨院では「柔道整復師」の国家資格を持つ治療家による施術が行われています。
整骨院にかかる場合、特定の傷病に対して「療養費」として健康保険を利用することができ、その場で治療費の控除を受けることができます。
整骨院で保険の適用が認められている傷病は以下のようなものです。
・急性などの外傷性の打撲・ねん挫・挫傷
・骨折
・脱臼
日常生活の疲労からくる肩こり、筋肉疲労や慰安目的のマッサージ、改善が見られない慢性的な症状は健康保険の対象になりません。
また、保険が適用される症状でも、注意したいのが整形外科での治療と並行して整骨院でも施術を受けている場合です。
同一のケガに対して施術を行う場合、健康保険の併用が認められません。
この場合、整骨院での施術は全額自費負担になってしまいます。
詳しくは全国健康保険協会のHPをご覧いただくか、かかりつけ医にご相談ください。
(※全国健康保険協会)
健康保険は国民みんなの共有財産です
整骨院では、一部の適応症状であれば医師の診断なしで保険を適用することができます。
そのため、例えばただの肩こりであっても関節をひねったことにして保険を適用させるなど、虚偽の申告によってあらゆる症状に保険を適用させるモラルを欠いた行為が問題になったことがあります。(いわゆる部位転がしと呼ばれる手法です)
しかし、2009年に行われた行政刷新会議の事業仕分けにおいてこの問題が取りざたされて以降、チェック体制が強化されています。
一部の施術においては整骨院に直接電話で確認を取り、保険を適用させるかどうかを審議することもあります。
不適切だとみなされた場合、協会けんぽから差額の請求がなされる場合があります。
整骨院で保険利用を考えているときは、いつ、どこで、どのようにして体を痛めたのかをハッキリと先生に伝えましょう。
そうすることで整骨院の先生も、自信をもって保険を適用させることができます。
そしてトラブルを回避するために、必ず領収書を発行してもらい、大切に保管しましょう。
医療費の増加は今や国民的な問題です。
必要な人が必要な時に使えるようにルールを守って保険を利用しましょう。
モラルある対応をお願いしたいところです。