眠れない夜に読む、肩こり歴史秘話

今回は肩こりにまつわるトリビアをご紹介します。

こりに悩んでなかなか眠れない夜に、一読どうぞ。

ただし、読書に熱中しすぎると、それまた肩こりの種になりますのでご注意を。

「肩こり」という言葉を一般的にした夏目漱石

現在は当たり前のように使っている「肩こり」という言葉。

「肩こり」という言葉が登場するようになったのは明治になってからだという説が一般的になっています。

そのため江戸時代の人は肩がこらなかったと勘違いしている人もいるようですが、それはあきらかな誤りです。

言葉は生き物。時代とともに変化していくものです。

江戸以前は肩が突っ張って痛みを感じる症状を「肩が張る」「肩癖」「打肩」などと呼んでいました。

かの有名な里見八犬伝にも

目の病は肩癖の凝りよりも起こるといえば…

と記述されています。

福島県小名浜のように、今も「けんびき」が方言として残っている地域もあるようです。

様々な言葉で表現されていた「肩の症状」ですが、名称の統一に大きく貢献したのは夏目漱石だと考えられています。

夏目漱石の有名な三部作『三四郎』『それから』『門』。

そのうちの『門』に次のような記述があります。

…頸と頭の継目の少し背中へ寄った局所が石のように凝っていた。

人気作になったこの三部作から「肩が凝る」という表現が広く浸透したといわれています。

ものすごく古い湿布の歴史

肩こりや筋肉痛に対する処方としておなじみの湿布薬ですが、その歴史は紀元前までさかのぼります。

紀元前1000年前後、古代バビロニアは高度な技術力を誇り、白内障の手術など様々な外科手術の技術をすでに獲得していたといいます。

当時の記録には現在のパップ剤、つまり湿布を意味する「poultice」という言葉が残されています。

シナモンの汁や牛乳に食用植物をすりつぶした粉を混ぜ合わせ、皮膚に張り付けていたようです。

古代ギリシャでも「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスの一味が湿布を開発しています。

古代ギリシャではオリンピックが開催されるようになり、スポーツが盛んになりました。

スポーツで受けた打ち身やねん挫、筋肉痛といった負傷を温めたり冷やしたりするために、塗り薬や貼付剤といった外用薬が使用されるようになります。

酢や酒、植物の油が用いられていました。

現在のアロマセラピーに近い治療だったのかもしれません。

一方日本でも、平安時代に編纂された日本最古の医学書「医心方」には生薬を細かく割ったり、竹簡で覆ったものを患部に貼ると傷がいえるとの記述があり、これが現在の貼付剤に当たるものだと考えられています。

戦国時代には生薬とごま油を合わせ和紙に塗ったものを患部に張り付け使用するようになります。

この治療法は今でも脈々と受け継がれています。

湿布が現在の形になったのは20世紀のアメリカ。

布に薬剤と吸着力のあるカオリンを塗り付け、患部に貼り付けるという手間のかかるものでした。

最初から布に薬剤が塗布してあるものができないかという現場の要望があり、そこから10年以上の歳月をかけてようやくいま私たちが使っている湿布薬が生まれたのです。

温泉マニア豊臣秀吉

天下統一を果たした豊臣秀吉は温泉好きとして知られています。

最も信頼を寄せていた弟の秀長とともに何度も有馬温泉を訪れたと伝わっているほど。

そんな秀吉が温泉の効能を力説している書状が見つかっています。

秀吉が側室の西ノ丸殿にあてた書状には、

…打肩には、湯からあがったときにやいとをするとよく効くようだ

というような内容が。「打肩」は肩こり、「やいと」はお灸のことです。つまり、湯上り後のお灸は肩こりによく効くといっているのです。

農民から成り上がり、天下人にまで上り詰めた秀吉。

その並々ならぬ苦労から、きっと肩こりにも悩まされていたのでしょうね。

温泉療法のかいもあったのか、秀吉は天寿を全うします。

火星に行けば肩こりがなくなる?

ここ最近になって火星移住計画が動き始めました。

ついに人類は地球を離れ、ほかの星で生活を始める準備を始めたのです。

さて、実際には存在しないということはおいて、火星人というとどのような姿を思い浮かべますか?

たいていの人は頭に対して足が異様に細い、タコかイカのような姿を想像するのではないでしょうか。

火星人の存在がまことしやかに囁かれるようになったのは1877年。

火星大接近の折に、火星表面に巨大な溝が見つかったことがきっかけです。

直線や円など幾何学模様を描いていて、当時、火星人によって建設された巨大な運河だと考える人がいました。

実際にはグランドキャニオンのような大渓谷だったわけですが、望遠鏡の性能が十分ではなかった当時、火星には高い知能を持った火星人がいると信じられるようになったのです。

このような背景があり、SF作家のウェルズは1897年かの有名な『宇宙戦争』を執筆しました。

そこで描かれたのは、異常に発達した頭脳に比べ、重力が弱いため体を支える構造が貧弱なタコのような火星人像でした。

このタコ型の火星人はほかの作品でも多用され、現在まで火星人のイメージとして定着しているのです。

さて、肩こりの原因は頭や腕の重さが首や肩の筋肉の負担になっているからです。

重力の弱い星に行けば体の重みから解放され肩こりもなくなると考えられます。

ところが、いい思いをするのは最初だけ。

しばらく経つと、今度はひどい肩こりや腰痛に悩まされると考えられます。

弱い重力に適応し、全身の筋力がみるみる衰えていくためです。

実際、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は、宇宙空間に数カ月もいれば背中や腰に痛みを感じるようになることが明らかになっています。

地球帰還直後には補助なしでは立ち上がることさえ難しいほど弱ってしまう宇宙飛行士。

宇宙での厳しいミッションを成し遂げやっと地球に帰還してからも、長期間のリハビリを受けなければならないのです。

人類は肩こりとともに

古代から現代、そして未来につながる肩こりのトリビアを取り上げてきました。

人類が二足歩行を始めたときから宿命づけられている肩こり。

古代バビロニアの時代から現在まで、さながら原罪のように私たちを苦しめ悩ませてきました。

宇宙に活動の場を広げるほど科学が発展しても、私たちは肩こりとうまく付き合っていくほかありません。

そしてきっと、火星に移住してからも…。