細胞に眠る原始の記憶

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【最新研究で判明!】“温泉で疲労回復”は気のせいじゃなかった?

秋も深まるこの季節。

日を追うごとに朝晩の寒さが身にしみるようになると、山奥の温泉に浸かりながら錦もみじでも眺めて(さびしげな鹿の声が聞こえるとなお良い)リフレッシュしたいと感じるのは、やや趣味が古いでしょうか。

まあ、とにかく日本人だけとはいわず世界中の人間、ひいては動物に至るまで、恒温動物である哺乳類にとって秋口から冬場の暖かい温泉というのは疲労を癒してくれる極上の愉悦のひとつ。
いまやサルもカピバラも当たり前に温泉に浸かる時代です。

ところが最近の合理主義的な考え方では、わざわざ遠くまで出向いて血圧急変動を招く温浴をしに行くなんて、よけいに疲労がたまってしまうのではという見方もあるそう。
たしかに移動疲れに入浴疲れ、慣れない土地での気疲れとなにかと体力を要し、湯治から帰ってくるとどっと疲れるなんてこともままあるので、分からないこともない気がしますが。

ちょっと押され気味の温泉LOVE勢を強力にサポートする世界初の発見がこの度、東北大学から発表されました。
イギリスの科学雑誌『Nature Communications』に掲載された内容は、これまでの哺乳類の常識を覆すものでした。
なんと、温泉に豊富に含まれる硫黄成分が私たちの生命活動に与える影響は、無視できないほど大きいかもしれないのです。
(参考:東北大学プレスリリース「世界初:哺乳類における「硫黄呼吸」を発見 – 酸素に依存しないエネルギー代謝のメカニズムを解明 -」)


細胞に眠る原始の記憶


東北大学の研究グループは、人を含む哺乳類が硫黄を使ったエネルギー生産の仕組みを持っていることを世界で初めて発見しました。
研究グループによって「硫黄呼吸」と名づけられたこの仕組みは、これまでの生物界の常識を覆すものです。

太古の昔。動物と植物が別れるよりも以前、地球上にはほとんど酸素がありませんでした。
現在大気のおよそ5分の1を占める酸素は、植物が光合成をすることで後になってから作り出されたものです。
原始の地球大気にあったのはほとんどが窒素や二酸化炭素で、今の火星のような状態だったと考えられています。
それでも地球上には生物が根付き、生きていました。
酸素も使えない彼らがなにをエネルギー源にしていたのでしょうか。
その答えは地球のはらわたから噴出する「硫黄」です。

現在でも海底火山の火口や温泉の噴出孔など、極限状態の場所には酸素をエネルギー代謝にまったく使わない微生物が生き残っています。
彼らは何十億年と変わらない性質を保ち続け、原始生命のありようを私たちに伝える存在です。

彼らのように硫黄を使ってエネルギーを生産していた生物が地球を支配していた時代はやがて終わりを迎えます。
光合成ができる生物「シアノバクテリア」の登場です。
酸素の登場は画期的でした。
生物はより活発に動けるようになり、より多くの種に進化していきました。
新たなエネルギーの仕組みを獲得した生物が台頭し、酸素を使わない嫌気性の生物は深い海の底に追いやられていったのです。

酸素を使ってエネルギーを生産するように進化を遂げたのが、私たち哺乳類です。
酸素はほとんどが細胞内にあるミトコンドリアという器官に運ばれ、そこでエネルギー生産と引き換えに消費されています。
これまで、ミトコンドリアがエネルギーを生産するには酸素が必要だと考えられていました。

ところが、実際には極限の世界に追いやられていった嫌気性生物のように、硫黄を使ったエネルギー生産の仕組みも備えていることが明らかになったのです。


もう一つのエネルギー生産回路「硫黄呼吸」で元気に?


硫黄には実は酸素と類似した科学反応をいくつも行うことができるという特徴があります。
東北大学の研究によると、アミノ酸の中にも硫黄原子が含まれているものがあり、このうちのシステインの過硫黄化物質が酸素の代わりにエネルギー生産に利用されているということです。
この「硫黄呼吸」ができないマウスは、正常のマウスに比べて著しく成長が悪くなったことから、実は硫黄呼吸が私たち哺乳類の生命活動に重要な役割を果たしているのではと考えられているのです。

まだ発見されたばかりで硫黄呼吸がどの程度私たちのエネルギー活動に関わっているのかや、硫黄呼吸を活性化することで疲労回復や老化防止に役立てることができるのかなどについては判っていませんが、温泉に浸かったときの高揚感、実は体が硫黄に喜んでいたなんてこともあるのかも。

ちなみに硫黄が多く含まれる食品としては、「にんにく」「たまねぎ」など。
この秋は、自らの体に眠る原始の力に思いを馳せ、温泉宿でにんにく料理なんていかが?

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