日本はガラパゴス?日米『腰痛治療ガイドライン』に見る違い|整骨、整体、マッサージ。あなたの街の治療院がみつかる情報サイト | ヘルスケア セラッピー

治療院の掲載料0円

日本はガラパゴス?日米『腰痛診療ガイドライン』に見る違い

2012年、日本整形外科学会と日本腰痛学会は腰痛治療の信頼度を横断的に取りまとめた「腰痛診療ガイドライン」を発行し、腰痛の8割以上は原因を特定しないことや、急性腰痛(ぎっくり腰)は安静よりもむしろ日常生活の活動を維持したほうが早期に回復するとした、市井にはあまり知られていなかった最新の知見が大きな話題になりました。現在、「腰痛診療ガイドライン」は、書籍やインターネット上で紹介される「腰痛診療に関する知識」の信頼できる根拠として、広く普及しています。

このような取り組みは、なにも日本だけで行われているわけではありません。遠く海を越えたアメリカでは、2017年、慢性腰痛とぎっくり腰を含めた腰痛症の治療に関する画期的なガイドラインが発表されました。

共に医療先進国といわれる2つの国の腰痛診療ガイドライン。
読み比べてみると、治療に対する考え方の違いが垣間見えます。

統計的に得られた質の高いエビデンス


2017年2月、アメリカ内科学会(ACP)は腰痛症に対する治療法の選択を補助するガイドラインを発表しました。
無作為に選びだされた被験者を体系的に調べて統計を得ている上、腰痛の軽減度や機能面の改善、生活や仕事への影響、有害作用、さらには患者自身の満足度までが追跡調査されて推奨度に反映されていることから、非常に質の高いデータだといえそうです。

腰痛症は、そのほとんどのケースで原因がはっきりしないことが治療を難しくしています。日本整形外科学会が2012年に作成した『腰痛診療ガイドライン』によると、実に85%が骨折や椎間板ヘルニアなどはっきりした原因を伴わない非特異性腰痛。多くが1ヶ月で急速に改善するとされているためコストをかけてまで調べる必要がないという背景もあるとはいえ、病巣を直接叩くことができないので、さまざまな治療法が乱立し、患者はどれを選択するべきかわかりにくくなっています。日本整形外科学会やACPのガイドラインは、治療の方針を決定する上で頼もしい資料になることが期待されます。

ところで、『急性、亜急性および慢性腰痛に対する非侵襲的治療法』(原題:Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain)と銘打たれたACPのガイドライン、実は日本整形外科学会の『腰痛診療ガイドライン』とは形式が大きく異なります。
日本版『腰痛診療ガイドライン』は各治療法が見出しになり、それぞれどのような症状に対して有効なのかが詳しく記載される辞書形式をとっています。
それに対してアメリカ版『ガイドライン』は、急性腰痛(ぎっくり腰)の場合、慢性腰痛の場合、非薬学療法で十分な結果が得らなかった場合と症状ごとに3つの段階に分け、それぞれの段階ごとに選択すべき手術以外の治療法を紹介するという形式を取り、より実践的な内容になっているのが特徴です。
そのため、読み進めるためには現在の自分の腰痛症が、急性期、亜急性気、慢性期のどの段階にあるのかを把握することが重要です。


参考資料1


ぎっくり腰にはマッサージや鍼(はり)治療を


ACPがまず勧告しているのが、急性もしくは亜急性の腰痛に関する治療の選択です。
ガイドラインでは、このような腰痛(ぎっくり腰を含む)の患者の大部分は治療に関係なく時間とともに改善するため、非薬理学的治療を選択すべきだと強く推奨し、具体的には温熱療法やマッサージ、鍼治療、脊椎マニピュレーションを挙げています。
また、医師や患者の判断で薬理学的療法が望まれる場合には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)または骨格筋弛緩薬を選択するべきだとしています。

一方、慢性的な腰痛症では、運動、リハビリ、鍼治療、マインドフルネス(瞑想)、太極拳、ヨガ、認知行動療法、脊椎マニピュレーションなどを選択するべきだとしています。
さまざまな療法が挙げられていますが、注目すべきなのは薬理学的な療法ではなく、複数の運動療法が推奨されていること。痛み止めや筋肉弛緩剤といった薬に頼らず、運動療法や行動認知療法による痛みのコントロールが、生活の質や満足度といった観点からも推奨されるということでしょう。

これらの薬に頼らない療法で効果が表れなかった場合に限り、低い推奨度で非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗うつ薬の処方を考慮するべきだとしています。抗炎症薬だけではなく抗うつ薬が選択肢に入っているのは、心理的・社会的な要因が腰痛の発症、悪化に深く関連していることが明らかになっているからです。

参考資料2


牽引・薬、日米の治療の違い


実際に日本国内で腰痛治療を経験したことがある人の中には、ある違和感を覚えた方もいるかもしれません。アメリカ版『ガイドライン』ではさまざまな非薬理学的療法の名が挙げられているのに、日本で広く行われている「牽引」の姿がありません。
牽引とは、古くから骨折や腰痛の治療に用いられている方法で、専用の器具を使って体を引っ張ることで、患部にかかる圧力を軽減させる治療法。軽度の変形を矯正する効果のほか、マッサージ効果で緊張緩和や血行促進が期待できるとされています。
実はこの「牽引」、欧米では既に腰痛治療に効果が認められないという意見が優勢になっており、日本版『腰痛診療ガイドライン』でも有効性の確証は得られていないとしています。ただ、実際に牽引治療後に腰の痛みが軽減する例もあることから、医師と十分に相談したうえで選択する必要があるでしょう。

一方、日本の『腰痛診療ガイドライン』ではあまり推奨されていないのにアメリカ版『ガイドライン』で頻繁に登場するのが鍼です。世界保健機構(WHO)は腰痛について鍼の効果を認めており、世界中で広く実践されています。

このように、ACPが鍼やマッサージを強く推奨する理由には、不必要な薬の使用を極力減らそうとする理念があるのかもしれません。急性腰痛では医師や患者が望んだ場合のみ、慢性腰痛では薬以外の療法で効果がなかった場合のみ、抗炎症薬の使用を推奨されていて、しかもその推奨度はほかのものに比べ低く設定されています。
日本版『腰痛診療ガイドライン』では、「腰痛に対して薬物療法は有効である」とし、薬の使用を推奨している他、実際の臨床でも「とりあえずの痛み止め」が処方されるケースが多いことが知られています。

すぐに薬を処方する日本の医療の背景には、患者負担が少なく済む国民皆保険制度があります。アメリカでは自由診療が基本であり、医療費の患者負担が非常に重いため、代替療法を活用したり、そもそも病気の治療を行わなかったりする人が多いといわれています。病状が悪化するまで医療を受けられない人が続出していることが社会問題化しており、大統領選の争点になるほどです。
日本の皆保険制度は、医療格差をなくす上で非常に重要な役割を果たしています。しかし、そのことで医療費が膨らみ国庫を圧迫、そのしわ寄せが他の社会保障の分野にまで及びつつあります。

今回、ACPのガイドラインに示されたように、腰痛症は多くの場合、薬に頼らなくとも運動療法や行動認知療法で快方に向かうとされています。本当に必要な治療がいつまでも保険で受けられる社会を守るため、薬に頼ることを前提にしない治療方針を計画してみてはいかがでしょうか。

その他の特集記事はこちら